アロメトリーについての論文を読む
アロメトリー研究の論文を読む
昔、本川達雄の『ゾウの時間ネズミの時間』を読んだとき、生物の「サイズ」は隠された制約によって支配されていてその制約は数式で表せるということに感銘を受けたことを最近思い出しました。生物のサイズを支配する関係式はべき関数()であることが多く、生物のサイズがべき関数に従っている関係のことをアロメトリー(allometry)と呼びます。今回はアロメトリーをテーマにした論文を一つ見つけてきて読んでみることにします。
- 作者:本川 達雄
- 発売日: 1992/08/01
- メディア: 新書
読んだ論文
八木光晴, & 及川信. (2014). 代謝生態論: 比較生理と生態学をつなぐ新たな代謝スケーリング. 比較生理生化学, 31(1), 20-27.
論文の概要
生物の何らかの指標を、としたとき、
という関係が成り立つことがある。この関係のことをアロメトリーといい、この関係式はアロメトリー式、あるいはべき関数と呼ばれる。アロメトリー式においてはスケーリング定数といいはスケーリング指数という。たとえば体重と脳重量、体重と骨格重量の間にアロメトリーが成り立つ。
アロメトリー式の両辺の対数をとることで、
が得られる。これはとを両対数グラフ上にプロットすると直線にのることを意味する。
の相対成長速度との相対成長速度の間に比例関係が成り立つことを意味する式、
の両辺をtで積分することでアロメトリー式を得ることができる。
エネルギー代謝速度と体重の間にはアロメトリーが成立することが知られている。Kleiberなどが複数の陸棲哺乳類について調べたところ、
エネルギー代謝速度を]、体重を]としたとき、
という関係が成り立つことが明らかになった。この式の両辺をで割って、
が得られる。この関係をクレイバー則(Kleiber's law)という。これは体重の増大に伴って体重当たりのエネルギー代謝速度は減少するという関係である。
クレイバー則は成熟個体についての種間の関係であり、種内の関係についてはアロメトリー式のスケーリング定数とスケーリング指数がクレイバー則とは異なることが知られている。また、本論文では個体についてのアロメトリーを生態系に拡張することも試みている。種内のアロメトリーについてと生態系のアロメトリーについての議論の紹介は本記事では割愛する。
エネルギー代謝速度の単位について
本論文においてエネルギー代謝速度の単位が気になったためこれについて調べた。本論文でエネルギー代謝速度の単位としてが使われているが、
である。はエネルギーの単位であるのでも単にエネルギーの単位であり、これをエネルギー代謝速度の単位として使うのは誤りであろう。
を体重()としをエネルギー代謝速度としたときに、
という関係が成り立つならばの単位はと考えるのが妥当だろう。なぜなら、の単位をとしてこの式にヒトの体重を代入し計算すると
となり、一般成人男性の基礎代謝量約と同じオーダーの値が得られるからである。
おわりに
今回はアロメトリーの基礎となることを学ぶことができました。アロメトリーについての論文をさらに何本か読んでみようと思います。