『SPEC』を見ました
『SPEC』とは
『SPEC』を一言で説明するとしたら戸田恵梨香演じる刑事・当麻紗綾と加瀬亮演じる刑事・瀬文焚流の2人が「スペックホルダー」による犯罪を捜査する刑事ドラマです。『SPEC』の世界では超能力のことを「スペック」と呼びスペックをもつ者を「スペックホルダー」と呼びます。 当麻は変人であり天才であるというキャラクターで、瀬文は特殊部隊SITの出身で戦闘能力が高いという設定です。二人がくだらないことでケンカしていがみ合いながらも協力して事件を解決するというのが各話の基本的なストーリーです。 『SPEC』の監督は『ケイゾク』と同じく堤幸彦でありこの2つの作品は世界観を共有していると言われています。ただ『ケイゾク』にはスペックが存在するという設定がないことをはじめ設定には差異があるので、両者の関係は続編というよりもゆるやかに世界観がつながっているという程度です。『ケイゾク』については過去に記事を書いているのでそちらもぜひご覧ください。 milkteasugar.hatenablog.jp
『SPEC』各作品について
2010年に連続ドラマ全10話が放送されました。その後2012年4月にスペシャルドラマ『翔』と映画『天』が公開され、2013年にスペシャルドラマ『零』と映画『結』の『漸ノ篇』と『爻ノ篇』が公開されました。『SPEC』シリーズの時系列の順に並べると『零』、連続ドラマ、『翔』、『天』、『結』となります。『零』が『SPEC』シリーズの前日譚に相当します。『SPEC』全作品の正味の時間の合計は975分(16時間15分)です。
年月 | 種類 | タイトル | 話・篇 | 時間(分) |
---|---|---|---|---|
2010.10-12 | 連続ドラマ | 『SPEC』 | 1話 | 60 |
2話 | 47 | |||
3話 | 47 | |||
4話 | 46 | |||
5話 | 47 | |||
6話 | 47 | |||
7話 | 47 | |||
8話 | 47 | |||
9話 | 46 | |||
10話 | 46 | |||
2012.4 | スペシャルドラマ | 『翔』 | - | 93 |
2012.4 | 映画 | 『天』 | - | 120 |
2013.10 | スペシャルドラマ | 『零』 | - | 97 |
2013.11 | 映画 | 『結』 | 漸ノ篇 | 94 |
2013.11 | 映画 | 『結』 | 爻ノ篇 | 91 |
合計 | 975 |
雑感(ネタばれあり)
『SPEC』シリーズを通して描かれていたことの一つに自身がスペックを持って生まれてしまったことに対するスペックホルダーの苦悩がありました。このテーマは結構好きですね。たとえば、予言するスペックをもつ冷泉は地下駐車場でサトリから解放されたときに、もうこれからは他者に予言を出して他者の人生を狂わすのはやめて一人穏やかに暮らしたいんだと言っていました。また、病を処方するスペックをもつ医者、海野は自らが望まないスペックを与えられることは残酷だと言っていました。この2人の姿にはぐっと来ました。
スペックホルダーだって苦悩しているというのに、瀬文はスペックはいらないだとかスペックホルダーを否定する発言を繰り返していました。この瀬文にはなんて了見が狭いんだと思って見ていました。ただ瀬文のこの態度は『SPEC』の物語全体から見たら当麻がスペックホルダーとしての自分にうぬぼれないようにする効果があったと理解できるんじゃないかなと考えます。『結』で当麻が自分のスペックを使うのが有効なときに使わないと自分がベストを尽くしたことにならないんだということを言っていましたが、このあたりで当麻は自分のスペックとのうまい向き合い方を見つけられたということなのでしょう。
一番好きなシーンは『翔』で当麻とサトリと久遠望の三人が「サトリます」ダンスを踊っているシーンですね。3人とも真面目にスペックを使っているのにその画がカオスだという点がいいですね。他に好きなシーンは『翔』で海野が当麻の左手に病を処方して感覚をなくすシーンです。今までの人生で病を処方して他者を不幸にするばかりだった海野がやっと人のためにスペックを使えたんだなあと感慨深いシーンでした。何か得意なことがあったとして、そのことで一番報われるのは自分の得意なことで人の役に立てた時ですよねやっぱり。
『ケイゾク』と『SPEC』の両方で主人公が死者とつながりをもつというシーンが何度も出てきました。生きている者が死者とつながりをもつということに堤幸彦はこだわっていたんじゃないかなと推測します。『ケイゾク』の映画では柴田が孤島で父や親友と会話していました。『SPCE』ではそもそも当麻のスペックが死亡したスペックホルダーを呼んでスペックを発動してもらうというものでした。また、『ケイゾク』と『SPEC』の両作品で簡単に人が死んだり想像世界か何かで死者がこの世の人間たちとコンタクトをとったりと生死の境を重視しない傾向がありました。どちらの作品でも物語のラストに近づくにつれこの傾向が強くなり戸惑うこともありましたが筆者はそういう作品だったのだと了解して味わいたいです。
『結』で向井理演じるセカイと当麻が塔の上で対決していました。『結』の設定は分かりづらかったので理解が及んだ範囲で少し整理をしてみます。セカイは先人類の代表です。実はスペックホルダーは人類が進化したものではなく、先人類の系統を継いでいます。地球外から飛来した遺伝情報をもつ生物が繁栄したことにより先人類は駆逐され、現生の人類が地球で繁栄を謳歌することになりました。何かのきっかけでセカイは人類を滅ぼしてリセットし先人類の時代に戻すことにしました。当麻はおびただしい数の先人類の霊体たちが入り込んでリセットされた後の世界に行くための「ゲート」としてセカイに利用されようとしていました。しかし当麻には意識が残っており世界のリセットを望まないスペックホルダーたちと結託してセカイに立ち向かいます。当麻は最終的にセカイと湯田を自分に取り込んだ上で瀬文に撃ってもらい地獄に落ちることでセカイとの戦いを終わらせます。卑弥呼が出てきて最後にセカイと対立しましたが卑弥呼のポジションは謎ですね。日本の中枢、世界各国の中枢、セカイ、湯田、卑弥呼、スペックホルダーたち、野々村係長などなど各立場の思惑が結局何だったんでしょう。世界と湯田の思惑は塔の上の対決で説明されていましたからまだ理解は及びますが、その他の立場については一周目では理解が及びませんでした。もし二周することがあったらきっと理解が進むことでしょう。最後に唐突に出てきたアサクラと女の会話は何だったんでしょうね。あれは唐突過ぎました。セカイと当麻との対立を何となく理解できたと思っていたところに急にさらなる謎を投げ込まれました。
『結』は物語のスケールが大きくなりすぎて訳が分からないというふうに批判されることが多かったようです。確かに『結』のラストは連続ドラマ前半のエンタメ要素豊富なテイストとはあまりにもかけ離れていてエンタメ作品としてはどうかと思います。しかし一つの作品としては世界の成り立ちを描こうという野心的なことに挑戦していたのでしょう。一つの神話を作り上げるとでも表現すればいいんですかね、このような挑戦を筆者は評価したいです。セカイが軽蔑して「原始的な本能」と言っていたものを当麻がそれは愛というんだよと反論するシーンがありました。このシーンで代表されるように、高潔な先人類に対して欲まみれであっても愛や絆のある我々人類の人間性を肯定してくれるメッセージを当麻が出してくれたことに一人類として筆者はほっとしました。
おわりに
『SPEC』シリーズは世界の成り立ちを描こうとした野心的な作品でした。天才かつ変人の餃子臭い当麻が実は世界の行く末を決定する存在だったことに何とも言えない寂しさをしみじみと感じている今日この頃です。
【謎解き】□に入る文字は何でしょう?
□に入る文字は何でしょう?
ヒント1
文字は全部で15個です。ヒント2
Iが多い全部で15個あるものと言えば?ヒント3
歴史に関係があります。
答えと解説
こちら
【クイズ】星は永遠か? 星の年齢と地球史の年代を比較してみよう
星は永遠か?
MONGOL800の『小さな恋のうた』で「あなたと過ごしたとき永遠の星となる」と歌われています。このように星は何かと「永遠」の象徴として使われますが星って永遠なんですかね。次の問題を考えてみてください。
問題
オリオン座の一等星リゲルが誕生したのは次のうちのいつごろでしょうか? もっとも適切なものを選んでください。
答えと解説はこちら
答え:4
リゲルが誕生したのは800万±100万年前だとされています1。では次に各選択肢を検討しましょう。
- 地球が誕生したのは46億年前です。
- カンブリア紀の大爆発が起きたのは5億4200万年前ごろです。古生代が始まる前、海の中にはクラゲのような柔らかい生物しか生息していませんでしたが古生代初めの5億4200万年前ごろに硬組織をもった多様な生物群が出現しました。この爆発的な多様化をカンブリア紀の大爆発といいます。
- 恐竜が絶滅したのは6600万年前です。恐竜をはじめとする様々の生物の大絶滅により中生代が終わり新生代が始まりました。
- 人類がチンパンジーとの共通祖先と分岐したのは700万年前とされています。
- ホモ・サピエンスが誕生したのは20万年前とされています。
従って正解は4ということになります。
恐竜が絶滅してネズミみたいな哺乳類が地面を走り回っていたころにはリゲルは夜空に輝いていなかったんですね。地球の歴史を1年にしてみましょう。すると人類がチンパンジーの共通祖先と分かれたもリゲルが誕生したのもどちらも12月31日の出来事です。案外リゲルの年齢はたいしたことないですね。同時に案外地球は宇宙の中で由緒正しい存在なのかもしれませんね。なんせ地球の46億年の歴史は宇宙138億年の歴史の3分の1に相当しますから。
だからリゲルを眺めてその輝きに永遠を感じるよりもこの諍いだらけの地球のほうに永遠を感じる方がよっぽど筋が通っています。存在し続けている時間の長さという観点だけで比べたら。
ひとつ注意していただきたいのはリゲルは年齢が若い恒星の部類に入るということです。私たちが見る夜空の星の中には数十億年と輝き続きているものあるので安心して星に永遠を感じることができます。たとえばおうし座のアルデバランの年齢は66億±24億年です2。
また別の意味でも恒星に永遠を感じることは妥当です。というのも、恒星はその一生を終えると自身の構成物質を周囲にまき散らし、まき散らされた星間物質が再び集まることで新しい恒星がこの宇宙に生を受けます。そして新しく生まれた恒星はその祖先と同じように核融合を行い光を放ちます。この延々と続くであろう営み自体は永遠とみなしてもいいのかもしれません。私たちが肉眼で観察するかぎり恒星がやっていることは光を放つことだけです。この光を放つという営みは星々がそのバトンを次々と受け渡しながら続けられてきました。それに比べて地球は私たちの生活の場でありそこで起きることは事細かに私たちによって観察されます。地球を事細かに見たらあまりにも目まぐるしく変わるその姿に永遠を感じることは難しいですね。
結局のところ、恒星は輪廻を繰り返し光り続けているので私たちが星を永遠の象徴とするのはまったくもって妥当です。
-
Przybilla, N., Butler, K., Becker, S. R., & Kudritzki, R. P. (2006). Quantitative spectroscopy of BA-type supergiants. Astronomy & Astrophysics, 445(3), 1099-1126.↩
-
Hatzes, A. P., Cochran, W. D., Endl, M., Guenther, E. W., MacQueen, P., Hartmann, M., … & Yang, S. (2015). Long-lived, long-period radial velocity variations in Aldebaran: A planetary companion and stellar activity. Astronomy & Astrophysics, 580, A31.↩
人体の細胞の数は全部でおよそ37兆個
ヒトの細胞の数は全部でいくつ?
ヒトの細胞の数は全部で60兆個だという説があります。私もずっとこの数字で覚えていました。しかし2013年にとある論文でヒトの細胞の数は37兆個であるという推定結果が発表され、こちらの数字の方が実際に近いと考えられるようになったようです。こちらがその論文です。
Bianconi, E., Piovesan, A., Facchin, F., Beraudi, A., Casadei, R., Frabetti, F., ... & Perez-Amodio, S. (2013). An estimation of the number of cells in the human body. Annals of human biology, 40(6), 463-471.
この論文はどうやらヒトの全細胞数を初めてしっかり推定しようと試みたものであるようです。この論文では人体の各組織について文献を調べたり計算をしたりして各細胞の細胞数を出し、それらを合計することで全細胞数を算出しています。このアプローチは正攻法であるように感じるのでこのアプローチで全細胞数を計算しようとした研究が過去に無かったことに私は驚きました。きっと各細胞の計算をすべて遂行するのが大変だったのでしょう。
この論文は次のサイトでも紹介されていました。
細胞ごとの細胞数の表
論文に掲載されていた細胞ごとの細胞数の表に和訳をつけたものがこちらです。
Organ/system | 器官/系 | Cell type | 細胞の種類 | 平均総細胞数(個) |
---|---|---|---|---|
Adipose tissue | 脂肪組織 | Adipocytes | 脂肪細胞 | |
Articular cartilages | 関節軟骨 | Femoral cartilage cells | 大腿骨軟骨細胞 | |
Humeral head cartilage cells | 上腕骨頭軟骨細胞 | |||
Talus cartilage cells | 距骨軟骨細胞 | |||
Biliary system | 胆道系 | Biliary ducts epithelial cells | 胆管上皮細胞 | |
Gallbladder epithelial cells | 胆嚢上皮細胞 | |||
Gallbladder Interstitial Cajal-like cells | 胆嚢カハール介在細胞 | |||
Gallbladder smooth myocytes | 胆嚢平滑筋細胞 | |||
Gallbladder other stromal cells | 胆嚢のその他の間質細胞 | |||
Blood | 血 | Erythrocytes | 赤血球 | |
Leucocytes | 白血球 | |||
Platelets | 血小板 | |||
Bone | 骨 | Cortical osteocytes | 皮質骨の骨細胞 | |
Trabecular osteocytes | 骨梁の骨細胞 | |||
Bone marrow | 骨髄 | Nucleate cells | 有核細胞 | |
Heart | 心臓 | Connective tissue cells | 結合組織細胞 | |
Heart muscle cells | 心筋細胞 | |||
Kidney | 腎臓 | Glomerulus total cells | 糸球体のすべての細胞 | |
Liver | 肝臓 | Hepatocytes | 肝細胞 | |
Kupffer cells | クッパ―細胞 | |||
Stellate cells | 伊東細胞 | |||
Lungs, bronchi, bronchioles | 肺・気管支・細気管支 | Alveolar cells (type I) | I型肺胞上皮細胞 | |
Alveolar cells (type II) | II型肺胞上皮細胞 | |||
Alveolar macrophages | 肺胞マクロファージ | |||
Basal cells | 基底細胞 | |||
Ciliated cells | 線毛細胞 | |||
Endothelial cells | 内皮細胞 | |||
Goblet cells | 杯細胞 | |||
Indeterminate bronchial/ bronchiolar cells | 判定不能な気管支/細気管支の細胞 | |||
Interstitial cells | 間質細胞 | |||
Other bronchial/bronchiolar secretory cells | その他の気管支/細気管支分泌細胞 | |||
Preciliated cells | 線毛細胞の前駆細胞 | |||
Nervous system | 神経系 | Glial cells | グリア細胞 | |
Neurons | 神経細胞 | |||
Pancreas | 膵臓 | Islet cells | 膵頭細胞 | |
Skeletal muscle | 骨格筋 | Muscle fibers | 筋線維 | |
Satellite cells | 衛星細胞 | |||
Skin | 皮膚 | Dermal fibroblasts | 線維芽細胞 | |
Dermal mast cells | 肥満細胞 | |||
Epidermal corneocytes | 角質細胞 | |||
Epidermal nucleate cells | 有核上皮細胞 | |||
Epidermal Langerhans cells | ランゲルハンス細胞 | |||
Epidermal melanocytes | メラノサイト | |||
Epidermal Merkel cells | メルケル細胞 | |||
Small intestine | 小腸 | Enterocytes | 吸収上皮細胞 | |
Stomach | 胃 | G-cells | G細胞 | |
Parietal cells | 壁細胞 | |||
Supradrenal gland | 副腎 | Medullary cells | 副腎髄質細胞 | |
Zona fasciculata cells | 束状帯細胞 | |||
Zona glomerularis cells | 球状帯細胞 | |||
Zona reticularis cells | 網状帯細胞 | |||
Thyroid | 甲状腺 | Clear cells | 傍濾胞細胞 | |
Follicular cells | 濾胞上皮細胞 | |||
Vessels | 血管 | Endothelial cells | 血管内皮細胞 | |
合計 |
グラフ
論文の結果から作成した棒グラフがこちらです。こちらを見ると赤血球(erythrocytes)が全細胞数の大文を占めていることが分かります。その他で目立つ細胞は血小板(platelets)、グリア細胞(glial cells)、繊維芽細胞(dermal fibroblasts)、骨髄の有核細胞(nucleate cells)です。この結果から考えるとヒトの全細胞数を推定するうえで支配的な影響をもつのは今挙げた細胞であると言えます。その他の細胞数に推定ミスがあったとしても推定結果にはほとんど変化しないと分かります。
またこのグラフを細胞数の降順に並び替え横軸を対数にしたものがこちらです。
おわりに
人体の全細胞数を知りたいというテーマは思いつきやすいテーマであるのにそれについて調べた研究が少ないということが意外でした。思いつきやすいテーマであったとしても大変であったりして案外手つかずのままで残っていることもあるのだなと感じました。
アロメトリーについての論文を読む
アロメトリー研究の論文を読む
昔、本川達雄の『ゾウの時間ネズミの時間』を読んだとき、生物の「サイズ」は隠された制約によって支配されていてその制約は数式で表せるということに感銘を受けたことを最近思い出しました。生物のサイズを支配する関係式はべき関数()であることが多く、生物のサイズがべき関数に従っている関係のことをアロメトリー(allometry)と呼びます。今回はアロメトリーをテーマにした論文を一つ見つけてきて読んでみることにします。
- 作者:本川 達雄
- 発売日: 1992/08/01
- メディア: 新書
読んだ論文
八木光晴, & 及川信. (2014). 代謝生態論: 比較生理と生態学をつなぐ新たな代謝スケーリング. 比較生理生化学, 31(1), 20-27.
論文の概要
生物の何らかの指標を、としたとき、
という関係が成り立つことがある。この関係のことをアロメトリーといい、この関係式はアロメトリー式、あるいはべき関数と呼ばれる。アロメトリー式においてはスケーリング定数といいはスケーリング指数という。たとえば体重と脳重量、体重と骨格重量の間にアロメトリーが成り立つ。
アロメトリー式の両辺の対数をとることで、
が得られる。これはとを両対数グラフ上にプロットすると直線にのることを意味する。
の相対成長速度との相対成長速度の間に比例関係が成り立つことを意味する式、
の両辺をtで積分することでアロメトリー式を得ることができる。
エネルギー代謝速度と体重の間にはアロメトリーが成立することが知られている。Kleiberなどが複数の陸棲哺乳類について調べたところ、
エネルギー代謝速度を]、体重を]としたとき、
という関係が成り立つことが明らかになった。この式の両辺をで割って、
が得られる。この関係をクレイバー則(Kleiber's law)という。これは体重の増大に伴って体重当たりのエネルギー代謝速度は減少するという関係である。
クレイバー則は成熟個体についての種間の関係であり、種内の関係についてはアロメトリー式のスケーリング定数とスケーリング指数がクレイバー則とは異なることが知られている。また、本論文では個体についてのアロメトリーを生態系に拡張することも試みている。種内のアロメトリーについてと生態系のアロメトリーについての議論の紹介は本記事では割愛する。
エネルギー代謝速度の単位について
本論文においてエネルギー代謝速度の単位が気になったためこれについて調べた。本論文でエネルギー代謝速度の単位としてが使われているが、
である。はエネルギーの単位であるのでも単にエネルギーの単位であり、これをエネルギー代謝速度の単位として使うのは誤りであろう。
を体重()としをエネルギー代謝速度としたときに、
という関係が成り立つならばの単位はと考えるのが妥当だろう。なぜなら、の単位をとしてこの式にヒトの体重を代入し計算すると
となり、一般成人男性の基礎代謝量約と同じオーダーの値が得られるからである。
おわりに
今回はアロメトリーの基礎となることを学ぶことができました。アロメトリーについての論文をさらに何本か読んでみようと思います。
ベストセラー『FACTFULNESS』の著者が運営する統計サイト「Gapminder」で遊ぶ
ベストセラー『FACTFULNESS』とは
『FACTFULNESS』は世界の実情をデータに基づいて正しく理解するための方法を私たちに教えてくれる啓蒙書です。最近よく売れているそうです。この本の中で筆者の一人が運営しているサイト「Gapminder」が紹介されていました。今回はこのGapminderを覗いてみます。
FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
- 作者:ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド
- 発売日: 2019/01/11
- メディア: 単行本
Gapminderを覗いてみる
Gapminderでは各種の統計データを簡単に可視化することができます。UIが直感的でサイトのデザインが美しい点が素晴らしいです。以下で可視化のためのツールをいくつか紹介します。
バブルチャート
Gapminderのバブルチャートのページでは自由にx軸とy軸とz軸(バブルの大きさ)のデータを決めて国ごとのグラフチャートを表示させることができます。たとえば次のグラフはx軸を1人あたりのGDPに、y軸を平均寿命に、バブルの大きさを人口にしたバブルチャートです。このグラフからは世界は先進国と途上国に分断されているわけでは決してなく大部分の国が中間的な経済・健康状況にあることが読み取れます。これは『FACTFULNESS』で力説されていたことでした。バブルチャートのページでは各国のバブルがどのように推移していくのかを見ることもできます。
このバブルチャートのページには他にもたくさんの機能があります。詳しい使い方は下の動画が参考になります。
How to use Gapminder Bubbles from Gapminder on Vimeo.
収入別の人口の推移の日中比較
Gapminderのサイトの中に収入別の人口(the number of people by income)を表示してくれるページがあります。このページで日本と中国の収入別の人口の推移を調べたところ非常に興味深いトレンドがあったので紹介します。
1868年
1800年から1900年ごろまでは世界人口の大部分が収入レベルはLEVEL 1に属していました。この頃はみんな貧しかったということになります。日本と中国の分布を比較すると両者はほとんど同じです。
1975年
1900年代から世界人口の一部が急速に豊かになり、1950年ごろからグラフに2つのピークが存在するようになりました。1975年のグラフを見ると日本人の大部分は豊かなほうのピークに属し中国人の大部分は貧しいほうのピークに属しています。こんなにきれいに分かれるのかと驚くぐらい世界は分断されていたことになります。
2019年
しかし1980年代以降、貧しいほうのピークはだんだんと高収入側に移動し2000年代に入るとピークは一つにまとまります。2019年のグラフにおいて日本人の分布と中国人の分布を比較すると、中国人の分布の方が低収入側に伸びているとはいえ高収入側を比べると両者はよくオーバーラップしていると分かります。
Gapminderの応用法
Gapminderの教育的効果は非常に高いと予想します。学校の社会科の授業でGapminderを使うと面白いことができそうだと感じました。たとえば生徒・学生の一人一人にGapminderの可視化ツールを使って複数のデータの間に何か面白い関係性を見つけてもらいそれをクラスで共有するという課題を出すとします。すると、各生徒・学生はクラスの人数分の面白い統計的事実に触れることになり世界の実情をよりよく理解できるようになると考えられます。
統計データを入手すること自体は簡単でもそのトレンドを分かるようデータを処理するのには手間がかかります。したがって、Gapminderはブラウザ上でたくさんのデータを簡単に分析できるようにしている点で非常に画期的です。Gapminderが様々な教育の場面で活用されることを願って筆を擱きます。
『ケイゾク』を見ました
『ケイゾク』とは
『ケイゾク』は中谷美紀演じる新米刑事・柴田純と渡部篤郎演じる刑事・真山徹がコンビを組んで迷宮入りした事件を解決していくドラマです。『ケイゾク』は1999年1月から3月にかけて連続ドラマとして放送され、同年12月にはスペシャルドラマが放送されました。翌2000年3月には劇場版が公開されています。
『ケイゾク』の舞台は迷宮入りした事件を扱う部署警視庁捜査一課弐係です。弐係は警視庁内の主流を外れた人たちが配属される部署で、東大卒キャリアの柴田は二係に研修生として配属されました。柴田が配属されるまでは弐係は典型的な”窓際族”としてのらりくらりと時間をつぶしていました。しかし柴田が配属されてからは変わり者の柴田が依頼人の変わった話に興味をもってしまうため色々な事件の捜査に乗り出していくことになります。連続ドラマの第7話までは依頼人が弐係に相談してきた迷宮入り事件を1話完結で解決していくストーリーです。柴田と真山がコミカルな掛け合いをしつつ捜査を進めて最終的には柴田がその天才的な推理力で事件を鮮やかに解決します。
しかし第8話以降は真山の宿敵である朝倉と真山の対決にストーリーが徐々に移っていき連続ドラマ終盤では快楽殺人犯・朝倉との対決が描かれます。朝倉は過去に真山の妹を輪姦して自殺に追い込んだ少年5人組の主犯格であり真山は朝倉を監視したり尾行したりしてずっと追っていました。真山と朝倉の因縁が柴田や弐係、捜査一課を巻き込み警察内部の問題を秘密裡に処理する特殊部隊SWEEPも出動して重大な事件に発展していくことになります。
『ケイゾク』作品の構成
『ケイゾク』全作品を視聴するのにかかる時間は?
『ケイゾク』各作品の長さは次の表のようになります。合計時間は719分であり、約12時間ということになります。
時間(分) | ||
---|---|---|
連続ドラマ | 1話 | 46 |
2話 | 46 | |
3話 | 46 | |
4話 | 46 | |
5話 | 46 | |
6話 | 46 | |
7話 | 46 | |
8話 | 47 | |
9話 | 46 | |
10話 | 46 | |
11話 | 46 | |
スペシャルドラマ | 94 | |
映画 | 118 | |
合計 | 719 |
雑感
今から20年ほど前の作品であり登場人物の持ち物やファッションには時代を感じますが、演出に関しては今見てもまったく時代を感じさせないスタイリッシュな作品でした。まず何といってもテレビ版のオープニングのタイトルバックがかっこいいですね。『ケイゾク』のタイトルバックは無機質で暗鬱な印象を与える写真が次々と切り替わっていくというつくりになっていて前衛的です。オープニング曲は坂本龍一が担当していて中谷美紀が歌っています。これもタイトルバックに合っていてまたいいですね。
『ケイゾク』全作品を見終えて、作品全体の底を無機質な空気が流れている点が印象的に感じました。弐係の刑事たちがギャグを言ったり柴田が愛について語ったり真山が殺人犯に激高したりと局所的にはウェットな部分はあるのですが作品全体を引きで見てみると非常に無機質な印象を受けます。この作品全体の印象とタイトルバックの雰囲気がよくマッチしていてその点も非常に良いです。
現代社会は法律や社会のルールなどによって一見万遍なく覆われているように見えるが実際は色々なところに社会の歪みが隠されている。そしてふとしたきっかけで暴力が表に現れ理性の手には負えなくなる。『ケイゾク』ではそんな世界を描きたかったのだと感じました。ドラマ終盤やスペシャルドラマのラストの流血シーンは筆者にとって見るのが辛いものでした。グロテスクなシーンを描くことで視聴者に理屈では説明できない世界を印象付けたかったのだと考えます。『ケイゾク』には解釈が難しいシーンもあり、視聴者を置いて行って進んでしまうようなところがあります。よくこんなグロテスクかつ解釈が難しい作品をテレビで流せたものです。視聴者が十分に理解可能で予定調和のうちに進む作品が良い作品であるわけではないので作品の制作者には自身が作りたい世界を作ってほしいものです。ただ視聴率や利益の関係で制作者の思うままに作品を作れないのは残念なことでもあります。
ドラマ前半では柴田は方向音痴や遅刻癖をもつ冴えない一面をもった刑事でとぼけた表情をしていましたが、後半に進むにつれ覚悟を決めていき表情が凛としたものになっていくのが良かったですね。
真山が真実はあいまいでありある真実を記憶している者がすべて消えたら真実も無くなるのだという趣旨の発言をしていました。心臓が止まるまで真実をひたむきに追うという言葉も作品中ででていきます。ナイーブに真実は一つであるというところに落ち着かないことがこの作品の世界を重層的にしていると感じます。快楽殺人犯・朝倉が死ぬことで命を永遠のものにして憎しみのない世界にするといったことを何度も言っていてこれは理知的に考えてみると支離滅裂で受け入れがたいものですが、暴力が支配する世界になったとき朝倉の思い通りになってしまうことは恐ろしいです。そんなときに真山が命をかけがえのないものとして大事にしてくれて朝倉に立ち向かっていってくれたことに筆者は救われました。
一つ文句を言いたいのはドラマ前半のコミカルなストーリーと後半のシリアスなストーリーの落差が大きすぎることですね。ギャグが面白くて演出がかっこいいドラマだなと思って見始めたらいつの間にか話は重くなっていきグロテスクなシーンを見させられていました。今から考えてみればこれは堤幸彦監督がドラマ後半で表現したかった世界を視聴者に見させるための戦略だったのだと思います。いきなり難解なものを見せては視聴者が付きませんから。ただ、ドラマ前半があったおかげで『ケイゾク』の世界に触れることができたのは筆者にとって大きな収穫です。