美しき世界、代わり映えのしない日常

都内医学部在学中の21歳。考えたことや勉強したことを書いたり面白かったコンテンツを紹介したり。

検査にまつわる数学【尤度比、ベイズの定理など】

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はじめに

本記事では、検査にまつわる用語(検査前オッズ、検査後オッズ、尤度比など)を定義しこれらの関係を示す。ベイズの定理も扱う。

状況設定

a+b+c+d人の人を集めたとき、そのうちa+c人が有病者でb+d人が無病者であったとする。有病者a+c人のうち検査で陽性となったものがa人、陰性となったものがc人であり、無病者b+d人のうち陽性がb人、陰性がd人であったとする。この状況は次の表で表すことができる。

有病者 無病者
陽性 a b
陰性 c d

諸用語の定義

  • 有病率(検査前確率)は\dfrac{a+c}{a+b+c+d}と定義する。検査前オッズ\dfrac{a+c}{b+d}と定義する。

  • 感度は\dfrac{a}{a+c}と定義する。

  • 特異度は\dfrac{d}{b+d}とする。
  • 尤度比(陽性尤度比)は\dfrac{\dfrac{a}{a+c}}{\dfrac{b}{b+d}}と定義される。これはすなわち\dfrac{感度}{1-特異度}である。

  • 検査後確率(陽性的中率)は\dfrac{a}{a+b}と定義する。検査後オッズ\dfrac{a}{b}と定義する。

検査後オッズ、尤度比、検査前オッズの関係

次のような式が常に成り立つ。

\dfrac{a}{b} = \dfrac{\dfrac{a}{a+c}}{\dfrac{b}{b+d}} \cdot \dfrac{a+c}{b+d}

これは次のような関係が成り立つことを意味する。

検査後オッズ = 尤度比 \cdot 検査前オッズ

ベイズの定理

事象Rと事象Cに対して

P(C|R) = \dfrac{P(R|C)}{P(R)} \cdot P(C)

が成り立つ。これをベイズの定理と呼ぶ。ベイズの定理は結果に相当する事象Rが起きたときに原因に相当する事象Cが起こる条件付き確率P(C|R)を求めるための定理と理解することができる。

【証明】 条件付き確率P(C|R)P(R|C)に対して次の2式が成り立つ。

P(C|R) = \dfrac{P(R\cap{C})}{P(R)}

P(R|C) = \dfrac{P(R\cap{C})}{P(C)}

この2式からP(R\cap{C})を消去して、

P(C|R) = \dfrac{P(R|C)}{P(R)} \cdot P(C)

(証明終)

「病気がある」という事象を原因の事象Cとし、「検査で陽性になった」という事象を結果の事象Rとすると、今考えている状況に対してベイズの定理を適用することができる。それでは早速ベイズの定理を適用してみよう。

ベイズの定理P(C|R) = \dfrac{P(R|C)}{P(R)} \cdot P(C)に登場する確率をそれぞれ解釈すると次のようになる。

  • 検査前確率P(C) = \dfrac{a+c}{a+b+c+d}

  • 検査後確率P(C|R) = \dfrac{a}{a+b}

  • 感度P(R|C) = \dfrac{a}{a+c}

  • 陽性となる確率P(R) = \dfrac{a+b}{a+b+c+d}

この関係を使ってベイズの定理を書き換えると、

\dfrac{a}{a+b} = \dfrac{\dfrac{a}{a+c}}{\dfrac{a+b}{a+b+c+d}} \cdot \dfrac{a+c}{a+b+c+d}

となる。すなわちベイズの定理は検査前確率と検査後確率の関係を表していると理解することができる。

確率とオッズ

1回の試行の結果が成功か失敗かであるような試行をe+f回行ったときe回成功し、f回失敗したとする。このとき、

  • 成功する確率\dfrac{e}{e+f}である。

  • 成功するオッズ\dfrac{e}{f}である。ただしオッズという語を別の定義で使う場合もあるので注意を要する。

確率とオッズは「事象の起きやすさ」を単に別々の表現で表現したものに過ぎない。確率とオッズの値の間には一対一の関係がある。

\dfrac{\dfrac{e}{e+f}}{1 - \dfrac{e}{e+f}} = \dfrac{e}{f}であるので、確率をpとしてオッズをOddsとすると、\dfrac{p}{1 - p} = Oddsという関係が成り立つ。

オッズと確率は同じようなものだという視点で見てみると、先ほど示した オッズに関する関係式

\dfrac{a}{b} = \dfrac{\dfrac{a}{a+c}}{\dfrac{b}{b+d}} \cdot \dfrac{a+c}{b+d}

と同じく先ほど示した確率に関する関係式(ベイズの定理)

\dfrac{a}{a+b} = \dfrac{\dfrac{a}{a+c}}{\dfrac{a+b}{a+b+c+d}} \cdot \dfrac{a+c}{a+b+c+d}

はほとんど同じような主張をしている式だと言える。